2010年代ロックフェスの大衆化と四つ打ちダンスロック

◆邦楽ロック・J-POP

 日本を代表するロックフェスといえば、夏の野外フェスであり4大フェスとも呼ばれている「FUJI ROCK FESTI VAL」「SUMMER SONIC」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」ですよね。関東近郊で行われるフジロック、サマソニ、ロッキンを3大フェスと呼んだりもします。

 ここ日本において音楽フェス、特に夏の野外フェスがロックファン以外にもその裾野を広げ始め、フェスブームが加熱し始めたのは2010年代以降のことです。その2010年代のフェスブームと相互的に加速していったロックシーンの勢力が「四つ打ちダンスロック」の勢力でした。

 「四つ打ちダンスロック」のブームとは何だったのか?ロックシーン、フェスシーンにおける影響とは?あの頃の熱を思い出しながら、四つ打ちダンスロックの魅力に迫ります!

『四つ打ちダンスロック』とは

四つ打ちとは?

サメちよくん
サメちよくん

そもそも四つ打ちってなに?

 「四つ打ち」は音楽用語で、テクノ、ハウスなどのいわゆるダンス・ミュージックの定番のリズムバスドラムを等間隔(1小節に四分音符が四回続くリズム)で「ドン・ドン・ドン・ドン」と低く鳴らしているのが四つ打ちのビートです。それに加えて、裏打ちとも呼ばれる、裏拍にハイハットを乗せた「ドン・ツー・ドン・ツー・ドン・ツー・ドン・ツー」のリズムが加わるとさらにノリやすくなり、いわゆる「四つ打ちロック」や「四つ打ちダンスロック」と呼ばれるジャンルに多用されているビートになります。

DJ SYUMOKU
DJ SYUMOKU

言葉だけだと難しいよね。実際に聞いてみるとこんな感じだよ

 当時、バンドサウンドに「四つ打ち」のビートを取り入れて新たなギターロックの切り口を提示したのが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「君という花」(2003年)。以後の邦楽ロックシーンにも大きな影響を与えた楽曲です。

 そして四つ打ちと言われて思い出すのが、チャットモンチーの「シャングリラ」(2006年)。
 四つ打ちギターロックの代表曲ですが、単純な四つ打ち曲にあらず。詞先1ゆえの字余りから生まれた変拍子が曲の世界にグッと引き込ませる良いアクセントになっています。

四つ打ちをバンドスタイルに取り入れた先駆者

 00年代に、アジカンやチャットモンチーを筆頭にした数々の邦楽ロックバンドが四つ打ちギターロックを定番へと押し上げて行きましたが、四つ打ちギターロック、四つ打ちダンスロックを説明する上で先駆者として欠かせないバンドがいます。

 それがTRICERATOPS(トライセラトップス)。

 代表曲の一つでもある「FEVER」(1998年)は彼らの魅力が詰まった名曲。
 当時の背景として90年代半ば〜90年代後半にかけては、J-POPにソウルやジャズ、ラウンジ、HIPHOPなどのジャンルを融合させることで生み出された渋谷系が流行していた時代。その中で、TRICERATOPSはバンドサウンドにダンスミュージックの定番であるディスコビートを落とし込むことによって、新たなスタイルで道を切り拓きました。

四つ打ちダンスロックの先駆者たち

サメちよくん
サメちよくん

でも今の「四つ打ちダンスロック」っていうとめちゃくちゃ速くない?今聴いた四つ打ちを取り入れてるギターロックと、最近フェスで人気なバンドたちはまた違うリズムな気がするなぁ…

DJ SYUMOKU
DJ SYUMOKU

そうだね。前の3曲もそうだけど、いわゆるディスコビートのBPMは120前後。昨今の「四つ打ちダンスロック」の楽曲は170前後くらいまで高くなってるんだ。

 いわゆるハウス、テクノにおいての四つ打ちのディスコビートのBPM2は120前後。しかし、いわゆるフェスで人気の「四つ打ちダンスロックバンド」と呼ばれるフレデリックなどはBPMが大体170前後です。「四つ打ちダンスロック」が盛り上がっていく背景として、2000年代後半にかけて人気が上昇していったバンド達の出現が大きく影響していると考えます。

 そのバンドのひとつがBase Ball Bear

 Base Ball Bearの鮮烈な印象を焼き付けたメジャー1stシングル「ELECTRIC SUMMER」(2006年)。
 本人もいわゆる「四つ打ちダンスロックのクラシック」だと認めざるを得ない楽曲で、従来の四つ打ちよりも速いリズムがライブ映えする仕上がりになっています。音楽シーンの変化やジャンルの変遷に対しての感度や消化能力が非常に高い稀有なバンドなので、後のブームを先駆するのは必然だったのかもしれません。

 そして、そんなBase Ball Bearとはまた一風違ったアプローチで新たな衝撃をもたらしたのが、the telephones

 ダンスロックといえば、彼らを思い浮かべる人も多いと思います。
 the telephonesのライブやフェス出演時において定番曲とも言える「Love&DISCO」(2008年)。

 楽曲を知ってる人も知らない人も、フロアにいる全員を踊らせるダンスロックの名曲とも言えるのではないでしょうか。初見のオーディエンスすら沸かせることのできる彼らの掌握力は、フェスの場において大きなアドバンテージがありました。一度聞いたら耳に残る中毒性の高いフレーズのループと、「Love&DISCO」と観客に声を上げさせるオーディエンス参加型の楽曲が、その場を一緒に作り上げている感覚にさせてくれます。

フェスと四つ打ちダンスロック

 前述のBase Ball Bearがギターロックの側面から四つ打ちの新たな可能性を提示したと言うならば、the telephonesはいわゆるニューウェイブ/ポストパンク3の側から斬新な切り口で新たな可能性を提示したとも言えるでしょう。

 先述したこの2バンドに共通しているのは、どちらもBPMの高い、速い四つ打ちであると言うことです。BPMが高くなることで何が起きるかというと、アップテンポでエネルギッシュな曲になるためアドレナリンが出て交感神経が優位になる(逆にBPMの低い落ち着いたヒーリング音楽は音楽療法にも使われる)ので、フェスという非日常な場所の盛り上がりを高めるには打ってつけであると言えるのです。

フェス人気の高まり

 消費者庁のHPによると、2010年頃からスマートフォンの普及が始まり、2013年〜2015年頃までにかけて一気にスマホ保持率が一気に上昇します。(→10%程度から60〜70%までに上昇 [※消費者庁HPより])

 2014年にはInstagramが日本語版で開設され、同時にSNS時代へ突入します。パソコンで開くのが一般的だったTwitter(現X)などのSNSも簡単にスマホで利用できるようになり、多くの人が様々な情報を得られるようになりました。リアルタイムでその場を共有できるようになったことで、フェスなどのイベントの楽しみ方も格段に幅が広がったのです。

 野外フェスは一種のテーマパークのように空間が区切られていたり、フォトスポットがあったり、フェス飯などインスタ映えする非日常な場所・アイテムがたくさんあるので、熱心な音楽ファンだけでなく、ライトファンやフェスというイベント自体を楽しみたい層にもマッチした結果、TVなどのメディアでも大きく特集を組まれるようになり、フェスブームが到来しました。

 従来の音楽ファン以外にも多様な層が参加することにより、アーティスト側もキャッチーで人気な曲盛り上がる曲を多くセットリストとして組み込むようになったり、むしろそういった曲を得意とするバンドがフェス人気を獲得していく傾向になった理由の一つだと考えられます。

2010年代〜四つ打ちダンスロックバンド

サメちよくん
サメちよくん

ある意味、SNSの発達と共にフェス人気が上がることでお客さんが増えて、より多くの人を楽しませるためにキャッチーで盛り上がる曲をやるバンドが人気を獲得していったんだね

DJ SYUMOKU
DJ SYUMOKU

フェスならではの盛り上がるセットリスト5で新規ファンも既存ファンも一丸となれるのがフェスの醍醐味でもあると思う。四つ打ちダンスロックのフェスとの相性は抜群だったから、両シーンが相乗効果で盛り上がっていったのも必然だったのかもしれないね

 スマホ所持率が上がり始めた2013年頃から四つ打ちダンスロックの盛り上がりの兆しが見え始めます。

 フェスの出演者で追っていくと非常にわかりやすいですが、2013年のROCK IN JAPAN FES.(以下ロッキン)では一番大きなGRASS STAGE初日のトリをサカナクションが務め、KANA-BOONがWING TENTにて初登場を飾りました。この年は先述のBase Ball Bearやアジカン、そしてThe Mirrazも出演者に名を連ねています。

 ミュージックビデオが公開直後から大きな注目を集めた「ないものねだり」(2013年)はKANA-BOON初の全国流通盤『僕がCDを出したら』の収録曲。この「四つ打ちダンスロック」のスタイルを武器にシーンを掌握し、ブームの中心に躍り出た彼らは、大阪から全国区へ、そして人気の絶頂へと上り詰めていきます。

 事実、翌年2014年のロッキンでは、KANA-BOONは二番目に大きいLAKE STAGEへと昇格し、今では周知の通り、一番大きなステージを務め続ける人気バンドとなっています。
 そして、同年初日のPARK STAGEのトリを務めるのが、初登場となるKEYTALK。四つ打ちだけでなく、あの手この手で踊らせるキャッチーなフレーズが彼らの魅力。“フロア全員を踊らせるロック”で熱狂を作り出しました。この時期は同世代のキュウソネコカミを含めた三組で「3K」なんて呼ばれることもあるくらい、非常に勢いがありました。

 2015年に入ると四つ打ちダンスロックの人気・需要は更に高まり、若手バンドたちもフェス常連バンドへと名を連ねていきます。
 この年のラインナップを見てみると、the telephonesTRICERATOPSの確たる地位を築いたバンド達の活躍は勿論のこと、KANA-BOONKEYTALKの若手バンド、そして勢いを増したグッドモーニングアメリカらが更に大きなステージへと昇格していきます。
 そんな中、四つ打ちダンスロックの人気を不動なものにしたバンド達が登場します。

 まずこのジャンルを語る上で外せないのは、フレデリックの存在。

 その後のフェスやライブのスタイルの規範にもなっていったのではないか?と言えるほど革命的かつ、今もなお色褪せることのない名曲「オドループ」(2014年)。KANA-BOON「ないものねだり」(2013年)と並んで、四つ打ちダンスロックの代表曲と言われることも多いこの楽曲。“踊ってない夜を知らない”というフレーズが否応にも人を躍らせて、熱狂の渦へと巻き込んでいくのです。中毒性の高いリズムと高揚感は今もなお定期的にバズり続け、国境を超えて愛されています。

 そしてもう一組。
 ストロングスタイルで四つ打ちダンスロックシーンへ殴り込みをかけてきたのが、夜の本気ダンス

 フレデリックは曲名から、そして夜の本気ダンスはバンド名からも、何が何でも観客を“躍らせる”という気概が伝わってきます。四つ打ちダンスロックを渇望しているライブキッズ6達の需要にマッチした彼らが、このシーンの人気を確たるものにしていったのではないでしょうか。

 フェスがニッチな層から広がり大衆化していく中で、より多くの観客を踊らせ盛り上がらせたバンドより大きなステージを任されるようになるのは当然のことです。フェスが大きくなるのと同時に、勢いを増して発展を遂げていったジャンルが「ダンスロック」ひいては「四つ打ちダンスロック」だったのです。文字通りの熱狂。曲が聞こえた瞬間に会場外からステージの方へと人が駆け寄って集まっていき、瞬く間にフロアが満員になっていく様子は圧巻の一言でした。

 初登場や若手バンドは小さなステージから始まることが多いですが、四つ打ちダンスロックの若手バンドの人気でステージのキャパを超え、入場規制が続出していたのも記憶に残っています。特にフレデリックは、初登場年から入場規制をよく叩き出していたので、当時の人気急上昇ぶりは目を見張るものがありました。

四つ打ちダンスロックのその後

 この時代のフェスには欠かせないサカナクションゲスの極み乙女。といったバンド達も「四つ打ちダンスロック」の楽曲を効果的に取り入れるなどして、シーンに大きな影響力をもたらしました。
 2013年頃〜2017年頃にかけてのフェスシーンを大きく盛り上げた四つ打ちダンスロックですが、その人気もピークを迎え、徐々に落ち着いていきます。その裏で新興勢力として盛り上がってきたのが、ソウルやジャズ、ファンクなどのブラックミュージックやヒップホップ、そしてシティポップなどの要素が際立つSuchmosnever young beachなどのバンドがフェスシーンの人気を集め始め、フェスのラインナップの幅が広がっていくことになります。
 フェスシーンの成長と共にあった四つ打ちダンスロックは、流行としては過ぎ去ったと言える傾向もあるとは思いますが、ここで紹介してきたバンドやその周辺バンド達もまだまだ多くフェスの出演者として名を連ねていますので、ライブシーンに根強い人気ジャンルとして確たる地位を築いたとも言って過言ではないはずです。

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  1. 【用語解説】詞先(しせん)…作詞作曲において、歌詞を先に作るか、曲を先に作るかを表す際に、詞を先に作るケースのことを「詞先」という。歌詞を先に作ってからメロディーを乗せること。⇔曲先(きょくせん) ↩︎
  2. 【用語解説】BPM(ビーピーエム)…音楽におけるBPM(Beats Per Minuteの略)とは、1分間の拍数、すなわち1分間の四分音符の数を指す。BPM60=1分間に60個の四分音符があるということ。数字が大きいほど四分音符の数が多くなるので、曲のテンポが速くなる。※テンポは速い遅いと言いますが、BPMは高い低いという言い方をするので、言語化する時は注意が必要。 ↩︎
  3. 【ジャンル解説】ニューウェイブ/ポストパンク(New Wave / Post Punk)…70年代、80年代にかけて流行した音楽の一ジャンル。同時期に隆盛した類似ジャンルのため併記されることも多い。従来のロック/パンクロックの流れを引き継ぎながらも電子音楽、レゲエ、ダブ、ファンクやダンス・ミュージックなどの要素を取り入れている。 ↩︎
  4. 【用語解説】セットリスト…アーティストやバンドがライブの際、演奏する曲を順番に記した表のこと。そのライブの曲目、演目。略してセトリという場合も。 ↩︎
  5. 【用語解説】ライブキッズ…フェスやライブハウスに通い詰めているライブ常連者達のことをライブキッズと称することがある。キッズと称されるが、性別・年齢などは問わず、熱心なバンドファン、ライブファンのことを界隈用語として表す。パンクやロックを聴いて育った人々をパンクキッズ、ロックキッズ、もしくは単純にキッズ達という言い方をすることもあるため、そこから派生した言葉かもしれません。 ↩︎

▼参考資料

※参考1
消費者庁 「第1部 第2章 第1節 (1)若者を取り巻く社会環境の変化」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2022/white_paper_120.html#m02

増井 鮫

平成生まれ平成育ち。好きなジャンルは日本のロック・ポップス、インディーズ、メロディックパンク、アイドル。元レコ屋店員。発散場所がなくなったのでブログ開設。売りは熱量のみというしがないオタクです。

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