パンクロックはロックから派生した音楽ジャンルのひとつです。
一般的に「パンクロック」を好きな人や「パンクロッカー」のイメージといえば、革ジャンを着て髪を立てて中指を立てているイメージがあると思いますが、パンクファンの全てがそのイメージに当てはまるわけではありません。
源流を辿れば、セックス・ピストルズに代表される70’s UK PUNKや、ニューヨーク・ドールズなどのNY PUNKから派生してきたものも多いのですが、同じ「パンクロック」に分類されるハードコアやEMOが好きな人が全員セックスピストルズを通ってきているかと言えば、必ずしもそうではありません。歴史を経てパンクロックは、様々な支流へと独自の進化を遂げてきたからです。
90年代から日本国内、海外において大きなムーブメントを巻き起こした「メロディック・パンク」「メロコア」「ポップパンク」と言ったジャンルがありますが、そのジャンルを好きな人でも「メロコアとメロディックパンクって何が違うの?」「ポップパンクとメロディックパンクって同じじゃない?」と聞かれた時、意外と説明が難しいと感じたことがあるのではないでしょうか。
正直、メロディックパンク、メロコア、ポップパンクって同じだと思ってた。何が違うの?
大きな括りで言えば近いジャンルだけど、ニュアンスとしては結構違いがあるよ。人によって捉え方が違ったり論争を繰り返してきた部分でもあるし、このサイトの意見も様々な意見を見たり聞いたりしてきた当サイトなりの解釈なので、あくまで参考程度に捉えてくれると助かるかな
はえ〜 いろいろあるんだね。でもボクの好きなバンドがどういうジャンルと言われているのか知りたいし、発掘するには便利だから違いが知りたいよ!早く教えて!
ニュアンスではなんとなく違いが分かっていても説明が難しいなと感じている方、まさに違いが分からないので知りたいと言った方におすすめしたい特集となっております。ただ放浪してたどり着いたというだけの方も、ぜひゆっくりしていってくださいね!
ジャンル概要・特徴
音楽ジャンルを大きな海と例えた場合、クジラがROCKで、ペンギンたちがJAZZ、そしてサメがPUNKだとするならば、サメの中にもたくさんの種類がいることに気付くでしょう。
例えば有名な映画のJAWSに出てくるホオジロザメは、ネズミザメ目ネズミザメ科ホオジロザメ属と言い表せるように、パンクという大きなジャンルの中に、ハードコアがあり、その中のメロディック・ハードコアだという風に言い表わせるのです。ポップパンクは同じネズミザメ目ウバザメ科、メロディックパンクはネズミザメ目ネズミザメ科アオザメ属など、このような形でメロコアやメロディックパンク、ポップパンクは非常に近しいジャンルであり、同じ先祖から派生した兄弟のようなジャンルとも言えます。
僕たちのようなサメの皆さんや動物好きの皆さんにはサメで言われたらわかりやすいけど、それ以外の人は何のこっちゃだよね(笑)
そうだね。簡単に言えば、非常によく似ているけど違うんだよってこと。他の例えで言うなら、世界から見れば同じ日本人でも、東京人・名古屋人・大阪人みたいな違いって考えたら分かりやすいかもね
メロディック・ハードコア / メロコア / Melodic Hardcore
メロディック・ハードコア(Melodic Hardcore)(略称:メロコア)はハードコア・パンク(Hardcore Punk)のサブジャンルの一種です。80年代のハードコア・パンクをルーツに、メロディへと重点を置いたパンクロックのことを呼びます。そのため、政治的な主張や過激なパフォーマンスを伴ったり、ボーカルにシャウトやスクリームが用いられる場合も多いのが大きな特徴です。疾走感もありますが、同時に重厚感も兼ね備えているのがメロディック・ハードコアだと言えるでしょう。
代表的なバンドはNOFX、BAD RELIGIONなどが挙げられます。
▼日本における「メロコア」
日本において略称の「メロコア」という言葉が使われている場合、必ずしも正しい意味で使われているとは限らないので注意が必要です。
先述のような正統なメロディック・ハードコアバンドに対し使っている場合では何の問題もありません。しかし、90年代〜00年代にかけての日本でメロコアブームが起こった時代、正統なメロディック・ハードコアバンドだけでなく、速い・キャッチー・英詩・ストリート系など、あえてふわっとした言い方をすれば「メロコアっぽい要素」を持っていれば「メロコア」バンドだとされる側面もありました。ブームが起きるとそれに対する反発する流れも起きますので、一部の精神性を重視するパンクファン1や洋楽ファンを筆頭に、一連のブームに対して良くない印象を抱いている層から「メロコア」を一括りにして揶揄されることもありました。そんな経緯もあり、ただ音楽の一ジャンルであった「メロコア」という言葉が本来の意味を離れて一人歩きをしてしまった結果、その時代を知る人の中には良いイメージを持っていない人も存在するのです。
ポップパンク / POP PUNK
パンクロックの中でもメロディアスで聴きやすい、読んで字のごとくポップなパンクに名付けられた“ポップパンク”。とにかく疾走感があり、より聴きやすくポップでキャッチーにアプローチするパンクのサブジャンルの一種です。90年代前半〜グリーンデイの登場によって広まったとされるが、当時のインタビューなどを読んできた記憶では、90年代当時にPOP PUNKという括り方はあまりしなかったんじゃないでしょうか。POP PUNKという言葉がしきりに使われるようになったのは遅くとも00年代半ば以降だと見受けられます。音楽的には、いわゆる2ビート(スラッシュビート)で畳み掛けるような疾走感あふれるサウンドが魅力。歌詞はティーンを中心に若者の青春や苦悩を描いたテーマを扱ったものも多いです。
代表的なバンドに先述したGREENDAY、THE OFF SPRING、BLINK-182などが挙げられます。
しばしばPOP PUNK/POWER POPといった形でパワーポップ/POWER POPという非常に近いジャンルで併記されることも多いですが、パワーポップは70年代UK/USロックの系統を受け継いだものです。どちらもポップとパンクのハイブリッドスタイルで、定義も曖昧な部分があり難しいところですが、“より速くキャッチーなもの”をポップパンクと定義していると個人的には感じました。
メロディックパンク / Melodic Punk
読んで字のごとく、メロディックなパンクのことを“メロディック・パンク(Melodic Punk)”と称します。
ポップパンクやメロディック・ハードコア同様に疾走感があり、キャッチーで耳馴染みのいいサウンドを持つ、パンクのサブジャンルの一種です。歌詞に関しては若者たちの日常や人生観、社会批評など多岐に渡ります。
メロディックパンクの代表的なバンドは日本で言えばHi-STANDARD、洋楽で言うならLAGWAGONなどが挙げられます。
メロディックパンクというジャンル表記は特に日本で多くされます。
海外においても勿論メロディックパンクという言い方はしますが、どちらかと言えばポップパンクやメロディック・ハードコア、そしてスケートパンクと言った言葉で表されることの方が多いと個人的には感じています。そして、メロディック・パンクはメロディック・ハードコアのバンドやスケートパンクの要素を持ったバンドの両方を指す場合があり、カルチャーとしてはストリート/スケーター2の文化を持ちます。メロディックな楽曲が武器だと言うのもあり、ポップなだけでなくどこか哀愁を感じさせるメロディを武器とするバンドが多いのも特徴で、これが日本でウケる理由だと個人的には思います。
日本でメロディックパンクという言葉が大きく広まったのは間違いなくハイスタの功績とそれに追随するバンドたちの活躍によるものだと思います。
別の角度から考えると、メロディック・ハードコアのハードコア要素が薄まるほどポップパンクに寄っていき、ハードコアのみならずスカ3、2トーン4、ロックなど様々なパンクミュージックの要素を含むバンドをメロディック・パンクと呼びます。ポップパンクとメロディック・ハードコアの中間点に存在すると言っても良いかもしれません。
簡単な見分け方
“疾走感があり、キャッチーで耳馴染みのいいポップなパンク”と言う定義だけで言えば同じですが、メロディック・ハードコア、ポップパンク、メロディック・パンクのそれぞれ代表的なバンドを聞いてみると、確かに違いがあることに気付くはずです。先述のジャンル概要を踏まえて、違いを下記にまとめてみました。
メロディック・ハードコア…従来のパンクよりもメロディに重点をおいていて、疾走感があってキャッチーだが、同時に重厚感も兼ね備えている。ハードコアの要素がしっかり入っている。時に反政府的だったり、社会問題などに切り込む歌詞も多い。
メロディック・パンク…最もメロディに重点を置いており、パーティーなノリでポップなものから哀愁が漂う無骨なメロディまで多岐にわたる。歌詞に関してもメロディック・ハードコアのように反政府的・社会的なものから、ポップパンクのような日常的なものも多い。スカやラウドなどの他のパンクサブジャンルの要素を含むバンドも存在。
ポップパンク…一番ポップでキャッチー、より大衆的なパンク。メロディアスで耳馴染みのいいフレーズが特徴で、日常的で共感しやすく、明るくて爽やかなサウンドのものが多い。
非常に近いジャンルではありますが、是非とも聴き比べていただき、その違いに気付いてほしい!そして自分の好きなジャンルを深掘りしてく楽しさを味わってほしい!の一心でまとめてみました。
口ずさみたくなるようなシンガロング曲だったり、西海岸のパーティーなノリのパンクもあったり、90年代哀愁メロディックパンクにはまた違う良さがあったりと、似通っているように見えて実は非常に奥が深いんです。
総括
CDショップ店員時代に様々なバンドの方とお話ししていて思ったのは、バンド側は“自分たちの音楽”をやっているだけで、カテゴライズは後からされてきたということ。ショップ店員や我々音楽ファンがオタクな会話をするときや、そういった種類の音楽を探す場合、どうしてもジャンル分けが必要になってくるし、非常に便利なんですよね。論争で心が痛む場面もありますが、友人同士で「俺はこう思う!」「このジャンルのこれがおすすめ!」なんて話をするのはめちゃくちゃ楽しいことなので、ジャンルで括ることのメリットやデメリットを理解しながら、そしてまた新たなジャンルやムーブメントが起こるのを目撃しながら、音楽に没入していきたいものですね。
自分がこのジャンルにハマった頃、メロディックパンクやメロコア、ポップパンクの違いを説明してくれているサイトや本があまりなくて、一から自分でいろんなことを調べた記憶があるので、同じような人のためにまとめてみました。このジャンルは長年大好きなので、もっと詳しく説明したい!と言う部分もあるので、それぞれのジャンルを深掘りする記事もいずれ書きたいなと思っております。乞うご期待。
▼脚注 ※末尾の矢印(←)クリックで本文の該当箇所まで戻れます
- 【背景解説】パンクの精神性/パンク精神…パンクロック、およびパンクと言うサブカルチャーを体現する人々=パンクス(punks)の掲げるイデオロギー(理念)は様々ですが、多く主張されるのは反体制的(アナーキズム)であり、反戦争、反人種差別、反産業ロック(=商業主義的なロックに対するアンチテーゼ)のため、ポップで大衆的なものはパンクじゃないと言う主張。 ↩︎
- スケーター(Skater)…スケートボードで滑る人、そのカルチャーを楽しむ人たちのこと。 ↩︎
- 【用語解説】スカ(SKA)…1950年代ジャマイカにて発祥・発展していった音楽の一ジャンル。ンチャンチャというオフビート(裏打ち)のリズムが特徴。 ↩︎
- 【用語解説】2トーン(2 Tone / Two Tone)…70年代イギリスにおいて発展したパンク、スカの混合により生まれた音楽の一ジャンル。ザ・スペシャルズ(The Specials)などが代表的なバンドとして挙げられる。 ↩︎