おしゃれな音楽といえばシティポップが定番だけど、そもそもシティポップってどんな音楽を指すんだろう?いつ間にかシティポップが人気になってたけどきっかけってあったりするのかな?
確かに2010年代の後半頃からシティポップのブームに火がついたよね。元々DJや音楽マニアの間では確固たる人気があって密かにアツいジャンルではあったんだけど、国内外問わず今のようなブームに至ったきっかけは何なのか、今日は掘り下げていこうか。
シティポップとは?
シティポップ(CITY POP)とは、1970年代〜1980年代にかけての日本で生まれたポップスの一ジャンル。日本のフォークやロック、歌謡曲を地盤に、洋楽ポップスの影響を受けた楽曲たちや、ジャケットアートワークなどのカルチャーを総称して呼びます。
明確な定義を持たず、どことなく「都会的(アーバン)」で「洗練された」音楽を商業的カテゴライズするために生まれたジャンルであり、一部では熱狂的なファンからの支持を地道に獲得しながら、30年の時を経て2010年代後半に入ると広く再評価され、世界的にリバイバルブームが巻き起こりました。
ここ数年で人気が加熱し確たる地位を築いたシティポップですが、現在「シティポップ(CITY POP)」とカテゴライズされている楽曲たちが生まれた当時は、「シティポップ」という言葉は生み出され存在しているものの、ジャンル用語として確定しているというよりは販促的に使用されている側面が強かったのではないかと思います。「ニューミュージック」であったり「都会的なポップス」を表現する文脈の一つとして「シティ・ポップス」「シティ・ポップ」という表現がされていました。
シティポップの再評価と再燃のきっかけ
元レコ屋店員の現場目線でシティポップの変遷を追うと、シティポップのレコードを買っていく層は、2010年代前半までは圧倒的に和モノDJ1が多く、それ以外には70年代・80年代邦楽コレクターの方や、海外バイヤーが買っていくような密かに人気なジャンルという印象でした。2010年代の半ばを過ぎると、コレクターや海外バイヤーに加えて一般層が段々と増えていき、市場の需要が高まることで、シティポップ名盤の復刻盤、再発盤の制作・販売が相次いでされるようになり、大きなブームへ繋がっていったというのが現場で見ていた印象としてあります。
日本でのシティポップのブームが局地的かつマニア向けであった理由としては、メインリスナーがリアルタイムでシティポップを聴いていた世代だったことも大きな要因です。シティポップに限らず、起爆剤になるようなきっかけがないと、若い層やオーバーグラウンドへの認知は難しいでしょう。和モノDJたちやそのリスナーは若者も多いですが、DJ文化そのものがクラブカルチャーの中にあるため、同好の士に愛されるジャンルであった理由の一つです。
ではなぜここまでシティポップがオーバーグラウンドへ広まったのでしょうか?
国外からの評価
シティポップの人気上昇の一因として、アジア圏を中心とする国外からの評価の上昇があります。
シティポップブームの火付け役としてよく名前が挙げられるのは、韓国のDJ /プロデューサーのNight Tempo(ナイトテンポ)です。
シティポップを中心に80年代JAPANESE POPS、昭和アイドル等を発掘・再構築したダンスミュージック「FUTURE FUNK(フューチャー・ファンク)2」の第一人者でもあります。
80年代邦楽史を彩る歌手、竹内まりやの1984年発売6thアルバム『VARIETY』に収録され、翌年12インチシングルとして発売されたシティポップの名曲「プラスティック・ラヴ(PLASTIC LOVE)」。2010年代後半に入りNight Tempoがこの楽曲をリエディット3した音源を発表すると瞬く間にインターネット上から世界へ広まっていき、本日まで至るシティ・ポップ・ブームへと繋がっていきました。
加えて、音楽サブスクやTikTokの普及が進んだことも背景にあると言えます。
竹内まりやもそうですが、2010年代後半から現在まで日本において各アーティストの音楽サブスク解禁が進んできました。それに伴い、知られざる名曲達がよりグローバルに見つかりやすくなったという背景があります。
竹内まりやのプラスティック・ラヴと並んでシティ・ポップ・ブームの立役者と呼んでもいい楽曲が、松原みきの1979年発売デビューシングル「真夜中のドア~Stay With Me」です。
東南アジア、特にインドネシアにおいて、TikTok音源として使用されることで認知度が高まっていく中で、インドネシアにてJ-POPのカバーを中心に動画をアップしているインフルエンサーRainych(レイニッチ)がこの曲をカバーすると人気が急加速していき、オリジナル楽曲を含めて世界的な再ヒットへと繋がりました。
70〜80’s ジャケットアートワーク
シティポップは音楽性はもちろんのこと、ジャケットアートワークにも特徴があります。
シティポップの象徴的かつ代表的な作品として、大瀧詠一『A LONG VACATION』と山下達郎『FOR YOU』の2作品があります。
大瀧詠一『A LONG VACATION』はイラストレーターの永井博が、山下達郎『FOR YOU』は同じくイラストレーターの鈴木英人が手掛けています。この2作品をはじめとした数々のジャケットアートワークが、シティポップというジャンルの作品のイメージを形作るのに大きく貢献したことは間違いないでしょう。
特にこの2作品の夏の空、海辺の街をパキッとした配色で彩ったイラストデザインは、シティポップのアートワークのイメージとして誰もが思い浮かべるような印象的なデザインに仕上がっています。そのほかにも、サンセットや椰子の木、ビルを彩るネオン、車など、シティポップのジャケットによくモチーフとして採用されています。
レコードのジャケットとしても完成されたデザインのため、アートワークも含めて今もなお、多くのコレクター心をくすぐっています。
まとめ
邦楽マニアなら必修ジャンルとも言えるシティポップ。
今回の記事で紹介した70年代〜80年代のみに限らず、例えば流線形や一十三十一といった2000年代以降に活躍している現行シティポップにもまだまだ注目アーティストがたくさん居るのでぜひ掘っていただけたらなと思います。
また今回のコラムから更にシティポップのアーティストや名盤を深掘りした紹介記事なども出せたらと思っておりますので、引き続きご注目ください!
▼脚注 ※末尾の矢印(←)クリックで本文の該当箇所まで戻れます
- 【用語解説】和モノDJ…和モノ(和物)とは、音楽業界・レコード屋業界において「日本の音楽」「邦楽」のことを指します。シティポップや歌謡曲をはじめとする邦楽を中心に選曲しプレイするDJのことを、和モノDJと呼びます。 ↩︎
- 【ジャンル解説】FUTURE FUNK…フューチャー・ファンク。2010年代初頭のインターネット上の音楽コミュニティからサンプリングを駆使して生まれた音楽ジャンル「Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)」から派生した音楽ジャンル。特に日本のシティポップをフューチャーし、フランスのハウス音楽デュオDaft Punk風のようなアレンジを加えたダンスミュージックのことを指します。音楽に限らず、80〜90年代のアニメなどのオタクカルチャーをジャケットアートやサムネイル、ビデオに使用することで、昭和・平成初期のレトロ漂うカルチャーを現代風に再解釈している。 ↩︎
- 【用語解説】リエディット…Re-Edit。再構築。既存のオリジナル曲の形を尊重しながらDJ用に再編集したもののことを指す。 ↩︎