青春パンクとは何だったのか
皆さんは青春パンクをご存知でしょうか。
2000年代前半に若者を中心にブームを巻き起こした、熱くて切なく、そしてまっすぐな歌詞と、疾走感あるメロディーに乗せた「青春」を体現したようなパンクロック/J-POPのことを「青春パンク」と呼びます。
00年代前半に局地的にブームを巻き起こした「青春パンク」とは一体なんだったのか?
青春パンクのおすすめバンドは?などなどSame Recorods目線で一挙特集。
青春パンクとは
青春パンクに分類されるバンドで代表的なのが、銀杏BOYZの前バンドGOING STEADY(通称ゴイステ)や、ガガガSP、175R、ロードオブメジャーなどが挙げられます。青春パンクのブームが起きた90年代後半〜00年代前半という時代はメロコア/メロディック・パンクの黎明期〜成長期とも重なりますので、英詩だけでなく日本語詩の曲も多数あるMONGOL 800(モンパチ)も部分的には含められるかもしれません。
上記バンドの共通点は疾走感あふれるメロディーと、暑くてまっすぐな歌詞。がむしゃらに、全身全霊で歌うボーカルが、当時の若者たちの心を掴みました。
本人たちが青春パンクを名乗ったというよりは、「青春パンク」は当時のCDショップ店員が作った言葉で、それが広く浸透していったのだとザ・マスミサイルのボーカルがブログで語っていました。1
青春パンクの源流を辿れば、80年代後半〜90年代にかけて活躍した伝説のパンク・バンド「THE BLUE HEARTS」の影響が大きいでしょう。青春パンクのバンドのルーツには必ずと言っていいほどTHE BLUE HEARTSがいる。ブルーハーツに憧れた若者たちが、当時の音楽シーンの流行りにも乗りながら自分たちの等身大を歌った時、それが「青春パンク」として大きなブームを巻き起こしたのです。
青春パンクの代表的なバンド
東京少年 / GOING STEADY
銀杏BOYZの前身バンドであるGOING STEADY。ゴイステの愛称で親しまれながら、2003年に解散。シーンを瞬く間の間に駆け抜けて、その存在感を鮮烈に焼き付けた彼らの2nd アルバム『さくらの唄』収録の「東京少年」。
このアルバムでは、のちに銀杏BOYZでもリテイクされることになる「もしも君が泣くならば」や「BABY BABY」、「銀河鉄道の夜」が収録されているのですが(銀杏ver.とゴイステver.でぜひ聴き比べてほしい!私はゴイステの銀河鉄道が今でも大好きです)その中でも3rdシングル「東京少年」はゴイステらしさ全開のまっすぐな青春パンク楽曲。
どこにもやりようのない怒りや衝動に満ち溢れた少年の姿がありありと浮かんでくる。”叫ぼう”“僕らは此処だ”と言う強烈なメッセージは、モラトリアムの中でもがく学生たちのアンセム2とも言えるはず。
線香花火 / ガガガSP
97年神戸にて結成。今もなお現役の青春パンクバンドであるガガガSP。
当時の青春パンクシーンを牽引し、代表曲には「卒業」や、アニメNARUTO EDテーマにもなり大ヒットした「はじめて君としゃべった」などがあり、アンダーグラウンドな雑草魂を持ちながらメジャーで成功したバンドでもあります。
ガガガSPの楽曲の持ち味は哀愁・郷愁が漂うメロディと、青春のほろ苦さを感じる力強い日本語詩。
中でも個人的にお勧めしたいのは2001年リリースの2ndシングル「線香花火」。誰もが心の中にある遠い夏の日。青春の原風景がここにある。忘れかけていた熱い気持ちを呼び起こしてくれるような、懐かしくも暖かいパンクロック曲です。
この曲は00年代日本語ロック好きにも響くんじゃないかな。
ザ・ワールド・イズ・マイン / STANCE PUNKS
98年結成。
型破りなスタイルでパンクキッズの憧れであり続けるスタパンことSTANCE PUNKS!
代表曲には2002年「クソッタレ解放区」、こちらもアニメNARUTO OPテーマ「ノーボーイ・ノークライ」などがあります。そういえば青春パンクバンドのNARUTO率高いなと思いましたが、NARUTOに限らず当時のジャンプのアニメ作品は日本のロック、パンクから非常に多様なバンドがピックアップされてて良かったですね。
スタンスパンクスの良さがゴリゴリに詰まった楽曲で個人的にお勧めしたいのは2010年「ワールド・イズ・マイン」。渋谷センター街を駆け抜けた大暴動のゲリラライブPVなので賛否両論あるとは思いますが、これがスタンスパンクスのパンクで、生き様なのです。青春パンクはスタンスパンクスを表す一つの言葉でしかありませんが、誰かの熱く渦巻く想いのやり場であり、いつでも蘇る青春の音色だと思います。
今なお現役なのも、自らのスタンスを貫いていてかっこいい。
教科書 / ザ・マスミサイル
2000年結成。今もなお現役かつ最前線で爆走する日本語ロック/青春パンクバンド、ザ・マスミサイル。
代表曲にはメジャーデビューシングルでありNARUTO EDテーマの「今まで何度も」や2005年発売3rdシングル「教科書」などがあります。メジャーとインディーズを行ったり来たりした経験もありながら、決して腐ることなく自分達らしい音楽を鳴らし続ける熱いバンド。ザ・マスミサイルには鍵盤がいるのも、心に染みる楽曲に深みを増している要因のひとつ。
彼らの音楽はまさに人間。どう生きるか、人間らしく生きるってどういうことか。日本語で実直に熱量を持って伝えてくる歌を真正面で受け止めた時、誰もが胸を打たれます。
青春パンク世代の芸人さんとの親和性が高いのか、藤崎マーケットの出囃子が「人のため」だったり、かまいたちの冠番組かまいガチにて「拝啓」が紹介されてたりするのも、熱く不屈の精神がリンクするからなのかもしれません。他の芸人さんにも度々話題にされているのも良いなと思います。
あなたに / MONGOL 800
98年結成。沖縄のバンドと言えば誰もが思い浮かべる、モンパチことMONGOL800。
彼らは青春パンクバンドなのか、メロコア/メロディック・パンクバンドなのか、それとも日本語ロックバンドなのか。そのどれもが当てはまるのかもしれませんし、カテゴライズするのも野暮なほど日本の音楽シーンに多大な影響を与えたバンドだと思います。
代表曲である「小さな恋のうた」は、リリースから20年以上経った今でもカラオケランキングの上位に君臨し続けるほど広く知れ渡っていながら、インディーズ精神を持ち続けているところが痺れます。
インディーズアルバム史上初のミリオンヒットを達成することになった2001年発売、2ndアルバム『MESSEAGE』の1曲目を飾る「あなたに」は「小さな恋のうた」に並ぶ代表曲。イントロからグッと引き込まれる、色褪せることのない名曲。モンパチの曲はライブでのシンガロングで盛り上がるのは勿論のこと、思わず口ずさみたくなるキャッチーなメロディが魅力。キャッチーながらも、どことなく郷愁を誘う楽曲群に胸を打たれること間違いなし。これからどれだけ時間が経っても、彼らの曲は残り続けるに違いありません。
大切なもの / ロードオブメジャー
2002年にテレビ東京『ハマラジャ』のドキュメンタリー企画「ロードオブメジャー」にて結成された四人組ロックバンド“ロードオブメジャー”。2007年に解散するまで、数々のヒット曲を生み出しました。1stシングル「大切なもの」がメガヒットを記録し、一躍人気ロックバンドの階段を駆け上がった彼ら。この時代を象徴する楽曲でもあり、この曲を聴くだけであの日々を思い出せるようなキャッチーでどことなく叙情的な青春パンク曲。
この曲のリリース自体はインディーズ盤では2002年9月、メジャー再発は2005年8月とどちらも夏のリリースなのですが、旅立ち、門出の曲なので、卒業シーズンにもよく登場してきた印象深い曲。まさに多くの若者の青春を彩ってきた楽曲です。実直な歌詞とキャッチーなメロディが耳触りがよく、この時代を生きてきた記憶の中に深く刻まれているはず。高らかで明るい曲調なのに、どことなく切ない。今後も誰かの門出の側で鳴り続けていくはず。
空に唄えば / 175R
98年結成。北九州発青春パンクバンド“175R”(イナゴライダー)!
2003年1月1stシングル「ハッピーライフ」でメジャーデビューリリースしオリコン初登場1位を記録、同年4月に2ndシングル「空に唄えば」をリリースしこちらもオリコン初登場1位を記録。「空に唄えば」は青春パンクというジャンルを飛び越え、日本の音楽シーンにも大きな存在感を残し、時代を代表する楽曲になりました。
イントロから最後まで勢いを損なわずに駆け抜けていくキラーチューン。夢を持つ若者なら誰しも共感できる内省的な部分と、郷愁と友への想いを綴ったまっすぐな歌詞。転調部分やシンガロングパートなどでグッと聴くものを引き込みます。時代を超えて愛される名曲です。
現行青春パンク
もう“青春パンク”という言葉はあまり見なくなりましたし、激戦のインディーズ・シーンを駆け抜ける若手バンドたちの表現も時代と共に多様化してるため、一概に“青春パンク”と括ってしまうのは忍びないのですが、そのスピリットを脈々と受け継いでいるバンドたちをSame Records目線で一部ご紹介。
チェリーボーイ・シンドローム / ハンブレッダーズ
大阪発四人組ロックバンド、ハンブレッダーズ。
メンバーチェンジを経て現在も進化し続けている彼らの初期作品である、2016年リリース1st mini album 『RE YOUTH』より「チェリーボーイ・シンドローム」。
初期衝動をこれでもかと詰め込んだこの楽曲をリリース当時聴いた時、なんて良質な青春パンクなんだ!と心が震えたのを覚えています。不安定な少年少女たちにとって、青さも若さも等身大の自分も全肯定してそばにいてくれるバンドがいることがどれだけ心強いことか。それは別に少年少女に限ったことじゃなくて、大人がいつかの自分たちを振り返って聴いたって良いわけです。
HELLO GOODBYE / FOREVER YOUNG
福岡県久留米市にて2007年結成、2014年に現バンド名へ改名したエバヤンことFOREVER YOUNG!
2014年、1stフルアルバム『THE FOREVER YOUNG』より「HELLO GOODBYE」。
元々、改名前にはハードコア色が強いバンドだった彼ら。スラッシュ・ハードコア3やギターロックを礎に、熱量の高い、雄々しくほろ苦い青春パンクをぶちまかしてくれる。決して飾ることのない丸裸な歌詞は、リスナーに対して嘘をつかないエバヤンの真っ直ぐなスタイルそのもの。
2019年リリースの3rdアルバム「ビューティフル・ユース」に収録されている、チューリップの「心の旅」のパンク・カバーも良かったので、よかったら聴いてみてください。
ジ・エンプティ
2019年結成。福岡県久留米市発、青春ロックバンド “ジ・エンプティ”。
2022年発売1stシングル「テイクミーアウト」。“会いたいなら会いにこいよ”というストレートな歌詞とキャッチーなメロディラインでグッと引き込まれる。拳を上げてしまうこと必至のパンクナンバー。初期衝動溢れる青さと熱さがまっすぐ胸を打ちます。バンドはこれでなくちゃという眩しさに溢れている。各地のライブでファンを増やし続けているので、今後の彼らの成長にも目が離せません。
最後に
00年代当時はインディーズシーンとメジャーシーンの棲み分けが今よりずっと顕著で、インディーズで人気が出たバンドが大衆向けに音楽をやることを良しとしない、厳しい目のロックファンが多く居ました。当時メジャーシーンで売れるには、スタイルを変える必要があった側面があるのもまた事実だと思います。それが全てではないし、スタイルを変えずとも売れたバンドも多く居ます。ですが、どんな音楽でも、売れてる音楽=ダサい、セルアウト4だという短絡的すぎる意見も多数見受けられました。バンド側にも、青春パンクに限らずカテゴライズされるのを嫌がる部分は多かれ少なかれあったと思います。そんな背景もあり、青春パンクはダサい!みたいな潮流もありましたが、個人的には青春なんて思い返せばダサいものだし、泥臭くてまっすぐで、ダサい部分があるからこそ心が動くんじゃないかと思うので青春パンクは大好きです。むしろ最近はリバイバル的に泥臭い青春パンクをやり始めている若手バンドもいて、青春パンク黄金期を知らない若いリスナーからも支持を得ているので、巡り巡って青春パンクの時代が再来したら面白いし最高だなと思っています。
脚注 ※末尾の矢印(←)クリックで本文の該当箇所まで戻れます
- 「青春パンクについて」https://ameblo.jp/mass-missile/entry-10512156929.html −ザ・マスミサイル唄姫よっくんのブログ「新・空を見上げたら眉毛が見えた」 ↩︎
- 【用語解説】アンセム…賛歌、聖歌を意味するAnthemから派生し、応援歌やジャンル・シーンを代表する普遍的な象徴曲という意味合いで使われることが多い。 ↩︎
- 【用語解説】スラッシュハードコア…ハードコアのサブジャンルの一種で、スラッシュコア、ファストコアなどとも呼ばれる。ブラストビート(バスドラ・スネア・シンバルを高速で叩くビートのこと)がよく使用される、簡単に言ってしまえば、とにかく速いハードコア・パンク。 ↩︎
- 【用語解説】セルアウト…元はヒップホップ用語。アンダーグラウンド、ストリートに向けて曲を作っていたアーティストが、商業的な成果だけを目的に大衆向けに売れる音楽を作ること。日本のロックシーンにおいては産業ロック、商業ロックという言葉が同義語とも言える。 ↩︎